Wednesday, April 09, 2008

「将来も農村を維持できるのかどうか、正直言って不安はある」
 一関市厳美町の本寺地区で、地域づくり推進協議会の会長を務める佐藤武雄さん(74)は、秋田県に続く国道の両側に広がる田んぼを見つめながらつぶやいた。「でも、みんなで力を合わせて守っていくしかない。ここで、稲作を続けることに価値があるんだから」
 同地区は、奥州藤原氏が統治していたころ、中尊寺に米を納める荘園だった。骨寺村荘園遺跡と呼ばれ、中世以来、今日に至るまで営々と稲作が続けられている。
 ここで生まれた佐藤さんは、「ここは中尊寺とゆかりのある土地なんだよ」と聞かされて育った。かつては地元の祭事に中尊寺の僧侶が参加し、護摩をたいていた時期もあったという。しかし、佐藤さんが物心ついたころからは、本寺と中尊寺との交流はほとんどなくなっていた。

すっかり忘れかけていた村の「記憶」が呼び覚まされたのは1990年代になって、本格的な調査研究が始まってからだ。「中世の農村風景を現代に伝えている」として再評価され、2003年には世界遺産の登録候補地に加わった。
 「こんな農村にそんな価値があるのか」。どこにでもあるような農村風景に突然、世間の目が向けられたことに、住民の多くはむしろ戸惑いの方が強かった。世界遺産どころか、高齢化や後継者不足による耕作放棄地の問題など、県内の他の農村と同じ課題に直面していた。
 それでも、佐藤さんは「今こそみんなで一致協力しなければ、世界遺産も何もなくなってしまう」と住民に呼びかけ、04年3月に約100戸の住民で協議会を発足させた。
 毎年春と秋には田植えと稲刈りの体験会を開き、県内外からの参加者をもてなしている。昨年12月には、本寺で育てた米を「荘園米」として中尊寺に奉納し、戦後に途切れていた行事を復活させた。
 本寺地区が抱える課題が、世界遺産登録によって解決するわけではもちろんない。それでも佐藤さんは悲観していない。「希望を持っていれば、きっと道が見えるはず。なんたって国の宝だからね」
 曲がりくねった水路が通る不ぞろいな形をした田んぼに、もうすぐ田植えの季節がやって来る。
(2008年4月9日 読売新聞)

世界遺産になると観光客も増えるでしょうねぇ

No comments: